背景
私はこの本を読み始めたころ、自分の未熟さに圧倒されていた。留学先では、思うようにコミュニケーションが取れず、誰もが自分より優秀で、実際に馬鹿にされることもあった。悔しかった。このままでは自分の夢をかなえられず、お世話になった人々へ恩返しすることもできない。将来への絶望を感じていた。そこで、過去に改革を成功させた偉人から何かヒントを得ようと考え、すがる気持ちで手に取ったのが本書「上杉鷹山(上)」だ。
要約:養子による藩政改革
江戸時代、鷹山は養子でありながらも米沢藩の主となり、藩政改革に取り組んだ。藩主に任命された当時、問題は山積していた。廃村ともいえる村々、壊滅的な財務状況、不信に陥った民衆、形式主義に囚われた重役など。一部の側近は、藩を返上する、つまり藩を解体することまで考えるほどであった。しかし、鷹山は藩民を富ませることを自身の使命とし、抜本的な改革に取り組むことにした。そこで、今までの形式主義的な政治を変革するため、外れものであった5人の人物、つまり嫌われ者を側近に置き、彼らに藩政改革の草案を作成させた。その案はどれも従来の政治を真っ向から否定するものであった。例えば、侍たちも農民や商人と同等の服装で、食事も質素なものにすること、などだ。鷹山は重役たちから激しい批判を浴びた。しかし、鷹山はこの案を決行し、幾度の妨害も克服しながら、次第に民衆の支持を得るようになる。
ポイント:改革における三つの軸
鷹山の改革には三つの軸があったように思う。一つは、改革の目的はどこまでも民衆の富であるということ。つまり、農民や商人が貧乏で藩政府だけが富んでいてはだめなのだ。そのために、士農工商といった身分を関係なしに、誰もが藩のために仕事をするべきだと主張した。例えば、侍は余った庭のスペースに原材料となる植物を育てさせた。当時の常識では、侍が農民と同じ仕事をすることは考えられないことであった。二つに、民衆の善を信じるということだ。鷹山が藩主に着任した際、民は絶望に明け暮れ政府への不信に陥っていた。収入のほとんどは年貢として徴収され、その厳しさは多くの農民が他藩へ逃げ込むほどであった。それゆえ、鷹山の改革を聞いた当初は、さらに税率が高くなると思い、鷹山を追い出そうとした。しかし、鷹山は民衆の不信は先代までの政府責任であると捉え、忍耐強く改革に努めた。城の会議には武士だけでなく足軽まで招集し、改革案を詳細に伝えた。鷹山自身も乞食のような質素な身なりと質素な食事で毎日を過ごした。次第に、鷹山たちの熱意が民衆たちに伝わり、彼らの心にも改革の火種が灯った。三つに、正しい方法で改革を進めるということだ。当時は、老中田沼意次が実質、幕政を牛耳っていた。彼は賄賂を真心であると宣言し、各藩に助長させていた。米沢藩の重役も、賄賂を鷹山に勧めた。しかし、彼は断固として賄賂を拒んだ。なぜなら、賄賂はその場しのぎの策に過ぎないからだ。改革というのは、抜本的な変革だ。短期的にしか機能しない援助はいずれ限界を迎え、何の解決にもならない。鷹山は今の藩を富ませるだけでなく、将来的な繁栄を考え、改革に取り組んでいたのだ。
感想
鷹山が持つ正しい目的感、動じない覚悟、遂行する行動力、それを下支えする優れた人間性に圧倒された。なぜ、誰のために学ぶのかを考え、大きなビジョンを持つこと。夢を遂行するために覚悟を持つこと。そして、どんな妨害があろうとそれを実行すること。どれも難しいことだ。若くして一藩のリーダーとなった上杉鷹山。なぜ彼がこれほどまでに強い信念を持ち、改革を実行できたかはわからない。しかし、この小説を通して、自分の生き方を見つめなおす貴重な機会となった。私も彼のような強いリーダーシップをもって、社会で活躍できるのだろうか。難しいとは思うが、自分なりに一歩ずつ前進していこう。本書を何度も読み返し、鷹山の精神を自身へ植え付けたい。まずは、将来のビジョンと実現のためにやるべきことを可視化し、実践していこう。